後藤研究室

6年一貫教育

2003年1月23日

理工学研究科・理工学部合同将来計画委員会報告 (2)
6年一貫教育
— 研究科のより一層の充実を目指して —

2003年1月23日

1.はじめに

6年一貫教育制度の狙いは,社会構造の変化や経済状況の激変にも挫けることなく,自律的主体的に生き抜く力を付けて学生達を世に送り出し,創造力と活動力ある市民層を育成し,以て社会の発展と繁栄に寄与せんとすることにある。6年一貫教育制度の下に勉学に励む意欲ある学生を一人でも多く集めることが,理工学研究科と理工学部に活力と研究水準の向上を齎すと信じ,更に,卒業生の活躍を通して社会の理工学研究科と理工学部への評価を高め,迂遠ながらもやがては入学者の資質向上へと繋がり,理工学研究科と理工学部の研究水準の一層の向上として実を結ぶことを願うからである。

理工学研究科への進学者数は増加を続け,早ければ2年後には400名に達することが予想される。この報告の目的は,I-MAST構想内に提示された「2004年度学部定員925の約60%が研究科に進学する」という短期目標の早期達成に備え

 

  1. 学部入学から前期課程修了までの6年間が,学生達にとっても指導を担当する教員達にとっても,より実り豊かな6年間となるには,受け入れる側の学部・研究科としては,どのような態勢を用意することが望ましいか。
  2. 大学院博士後期課程を前期課程の充実に相応しいまでに拡充し,研究に重点を置いた研究型大学への移行を速やかに実現するにはどうすればよいか。

 

という2つの課題を検討し, 実行案作成の指針を定めることにある。専門的職業人として実社会に出る学部卒業生達への教育上の配慮も勿論忘るべきでないが,この報告の主要な関心は,やや整備が遅れていると判断される6年一貫教育制度の充実にある。JABEEへの対応も視野に入れるなら,入学者数の急速な増加と6年一貫教育政策の推進が,指導教員に負担増を齎すことは避け難い。この「6年一貫教育」構想は,上記(1)に述べた如く,学部入学から前期課程修了までの6年間をより実り豊かな時間とするには,どうすることが望ましいかを議論し検討したものであり, 単に教育効率の問題や教員の負担の軽減だけを検討したものではないが,研究・教育の両面で,教員達にとっても明るい展望と将来構想が可能となるには,運営体制の合理化の他に,抜本的な研究科強化策が不可欠であると思われる。
大学院進学の動機は多様であるが,基本的には

 

 

である。学部3・4年生達も就職活動を始めれば,大学院学生達が就職戦線に於て有利な立場に立っていて,実態は身分差別に近いという事実に出会う。勢い,大学院進学を考慮せざるを得なくなるのである。資質に恵まれた志の高い入学者を増やし,充実した実り多い2年間となるにはどうすればよいかを考え,そのような大学院研究科を数年以内に実現することこそ,理工学部が社会の付託に応える途であり,生き残りが懸かった当面の課題なのである。

前期課程入学者数が大幅に増加しても,後期課程の充実を伴わない間は,研究科に対する外部組織による評価向上には,残念ながらさほど寄与しない。前期課程の拡大と充実は,研究に重点を置いた大学としては必要不可欠なことではあるが, 研究科が真に研究科の名に値する機関であるかどうかは,博士後期課程に於ける研究教育の充実の度合いによって計られるからである。本研究科後期課程は,創立以来唯の一度も入学定員を充足したことがない。入学者は例年10名前後であり,300名余の前期課程入学者数と比べると,かなり見劣りがする。後期課程入学者が少ない理由のうち,主なものは

 

  1. 国立大学は勿論,他私大と比しても学費が高く,他大学の前期課程修了者にとっては,本研究科博士後期課程への進学は,ほぼ問題外であること。
  2. 博士の学位への日本社会の敬意は低く,後期課程を修了し学位を取得したとしても,経歴に相応しい職が企業等に得られるとは限らず,むしろ高年齢を理由とする雇用不安の方が大きいこと。
  3. 本研究科前期課程学生は実社会への関心が強く,academic positionへの志向よりも,実業界での活躍を望む傾向が強いこと。

 

である。経済的要因の他に,学位取得後の進路に不確定な要素が多く,進学の魅力を大きく相殺するからであって,前期課程の学生に後期課程に於ける研究活動継続の能力が欠けているからではない。ある調査によれば,調査対象企業の47%が「博士後期課程修了者は採用しない。」と回答しているが,社会人の後期課程入学者は実際には増加傾向にあり,後期課程修了者の企業への途にも変化の兆しが見える。後期課程の充足へ向けて,研究科でも可能な対策を探り,実行に移すことが求められる。経済的な面では

 

  1. 大学院学費は3年前に20数万円の引き下げが実施されたが,中央大学や国立大学並を目指して,再引き下げを行う。
  2. 明治大学給付奨学金制度を大学院にも拡大する。
  3. 研究者養成型助手枠を更に拡大する。
  4. 十分な研究成果を挙げ,大学等academic positionへの就職活動を有利に進めるために,PD助手3年制を創設する。

 

といった対策を検討し,実行に移す必要がある。後期課程修了者を大学等academic positionだけではなく企業にも送り出すには

 

 

などの対策を始めとして,後期課程修了者が柔軟な研究開発能力を備え,豊かな人間性に裏打ちされた魅力的な社会人に育つよう,努力と施策が必要である。
学部学生の資質が変化して来ている。大学院入学者の量的拡大が大学院教育に齎す弊害も,次第に顕在化しつつある。学部教育の充実の他に,大学院専任教員枠の設置・大学院専用研究費の配分・大学院学生専用のスペース配分と言った措置がない間は,質の低下を伴わない量的拡大はなかなか困難なのである。「6年一貫教育計画」は学長方針にも謳われていることではあるが,我が6年一貫教育の実施具体案は,以上の観点を十分に踏まえた上で立案することが大切である。

2.学部教育の再編

学部入学から研究科前期課程修了までの6年間を,学生達にとっても教員達にとってもより実り豊かな6年間にするため,まず学部教育の再編を行う。6年一貫教育はJABEEプログラムとも深く関連する。「両立と一致」を前提に学部教育の再編に努力することが求められる。

 

  1. 6年間を2+4,即ち,学部1・2年と,学部3・4年+前期課程2年間の計4年間に分けて考え,学部の2年間は広い意味の基礎教育のため,その後の4年間は専門教育と研究のための時間と位置付ける。大学院進学を予定する学生達と学部を卒業して社会に出る学生達のどちらに対しても,不当な差別がないよう,実り豊かな基礎教育と充実した専門教育が提供されるように,制度を工夫する必要がある。
  2. 勉学に動機付けを与え,方向性を示すため,学部1年次後期に,総合文化ゼミナールとは別に,TAを補助者とする「専門科目ゼミナール」を開設する。
  3. 学部3・4年には,大学院進学コースと学部卒業コースの2つのコースを用意し,学部2年次終了後に選択させる。但し,3・4年次に於ける進路変更が著しく困難となるようなコース制は,好ましくない。
  4. 学部3年次配置の主要科目の幾つかは進学者向けと卒業者向けの2本立にし,大学院進学予定者向けの授業科目には,やや発展的な内容を盛り込む。
  5. 学部ゼミナールは3年前期から開始する。できれば進学者向けと卒業者向けの2本立とする。
  6. 学部4年次配置の講義科目は大学院と共通にする。学部学生による大学院科目「先取り履修制度」に対応する制度として,大学院学生が学部の授業科目を履修し,これを大学院として単位認定するような制度も必要である。
  7. 大学院進学予定者のため,学部3年卒業制度を完成する。
  8. 他学科科目取得単位数制限や年間取得単位数制限は,大幅に緩めるか,撤廃する。
  9. 学部の上位学年に配置された科目も受講できるような制度を創る。

 

研究型大学を目指しI-MAST構想を実現するには,6年一貫教育体制の整備が不可欠である。充実した6年一貫教育は,学部教育の再編だけでは達成されない。上述の施策を実行しながら,「昔のやり方」と指摘された,研究科の教育システムとプログラムを合理化し一新することが,次の課題となる。学科・専攻の再編も検討することが必要である。業成績評価法と進級制度の改正も必要となる(⇒ 9.2)。

3.研究科の強化

前期課程の充実に併せて博士後期課程を充足せしめ,より実り豊かな6年一貫教育を実現するには,理工学部と理工学部教員の努力だけでは十分でない。他学部の教員数は,実際の入学者数に合わせ,既に学部設置基準の1.2倍に達している。この基準で計算すれば,850人の学生定員を有し1,100人が入学する理工学部の教員数は,154人でなければならない。2004年度学部定員925人を基礎にすれば,165人が然る可き教員数である。博士前期課程定員と入学者数の増加を考慮に入れると,理工学部の教員数は他学部に比して少な過ぎ,公正を欠き不合理なものと考えざるを得ない。教員数の増大を中心に据えた次の要求は,認められて然る可き主張であり,理工学部大学院担当教員の切実な願いである。
大学院博士前期課程定員300余名に対応する大学院人事枠・予算枠を設定し実行する。

4.後期課程充足のための施策

後期課程充足のため,経済的支援策を纏めれば,下記の通りとなる。一部は既に,明治大学「2003年度教育・研究に関する年度計画書」内に記載されている。これらの対策を選択的に実行すれば,博士後期課程の充足に大きな寄与が期待される (⇒ 9.1)。

 

  1. 大学院学費の中央大学・国立大学並再値下を行う。
  2. PD助手3年制を創設する。
  3. 研究者養成型助手の採用枠を拡大する。
  4. 明治大学給付奨学金制度を大学院にも拡大する。

5.修業年限の短縮

前期課程を1年で修了し後期課程2年で博士の学位が取得できる,或いは,学部を3年間で卒業して大学院に進学し,後期課程1年で博士の学位が取得できるよう,制度を整え,修業年限の短縮を図る。

6.目的別研究所の設置

優れた研究は,後期課程の充実には勿論,6年一貫教育の前提条件である。COEへの対応を含め,新たな研究組織への発展を期待しつつ,専攻内または専攻横断的に,目的別研究所(所員は主に研究専念期間の教員を充て,専従化しない。)の設置を急ぐ必要がある。研究科と学部はこれを認知し,RAの配置・研究費配分等の面で可能な支援態勢を取ることが強く望まれる。

7.総合文化教室の大学院参加

研究上の視野を広げ,より深い奥行きと広がりを持たせるため,総合文化教室による大学院への積極的参加が望まれる。(学部と研究科の一体的運営という観点からも必要である。 )

8.事務局の強化

大学院担当事務職員の増強が必要である。事務処理がコンピューター化されたとはいえ,2名の職員で700名余の大学院生に応対するのは,やはり相当の無理があると思われる。

9.その他

以上の指針に対する補足説明と追加を行う。

9.1 研究科学生に対する支援態勢

 

  1. 他大学からの入学者を増やすなど,大学院博士前後期課程への進学者数を安定的に増大せしめるには,授業料の中央大学・国立大学並再値下げを行う必要がある。
  2. 大学院学生と学部下位学年学生との交流接触を密にすることが,一貫教育の充実には絶対に必要である。このような営為は一貫教育の目的でもある。TA・RAの導入に当たっては,tutor制度の様な,従来の実験助手補の業務とはやや性格の異なった教育的任務も視野におき,要求して行く必要がある。

9.2 学業成績評価法と進級制度の改正

 

  1. 学部入学時に学問への指向を持たず,大学の営為の何たるかを知らず,知ろうともしない学部学生が増えて来ている。入学者の資質の変化と2極分化は抗い難い。学部教育の再編と充実という正攻法の対応だけでは十分でないかも知れない。大学教育への信頼を保ち社会の付託に応えるには,努力をし成果を挙げた学生が眼に見える形で正当に評価され,意欲を欠き努力をせず成果も挙がらない学生達が淘汰されるような仕組みを作ることも必要である。無条件の再履修制度には検討の余地がある。単純な単位数評価ではなく,GPA制度のように,取得した単位の成績内容が反映されるような学業成績評価法が不可欠である。絶対評価制度より,相対評価制度の方が効果があるかも知れない。優れた成績を修めた者への表彰制度と共に,意欲を欠いた成績不良者への強い指導態勢も必要である。留年・落第は1回に限ってこれを受け入れ,2度目は退学勧告をするか,直ちに退学させる位の厳しさがあってよい。
  2. 学部に於ける学習に適度の緊張を与えるには,学部2年と3年の間に進級関門を設ける方が適切である。

 

学業成績評価の厳正化に着手するのであれば,受講学生による授業評価調査を完全実施し,誠実に反映させる制度を急ぎ完成することは教員側の責務となる。

9.3 第三者評価委員会の設置

学部長の諮問機関として,卒業生も参加する第三者評価委員会を設置し,研究,教育,学科・専攻・学部・大学院の管理運営,地域社会を含めた社会への貢献などの項目について,教員の業績と成果を評価し,必要に応じて,評価に基づいた適切な措置が取れるようにすべきである。