明治大学総合研究機構
提言 : 明治大学総合研究機構(明治大学コンソーシアム)
I. 明治大学総合研究機構(明治大学コンソーシアム)
(ア)「研究担当副学長職」を新設し,「明治大学総合研究機構」(または,「明治大学コンソーシアム」(仮称))を統括させる。研究担当副学長は,他に,大学院院長として,明治大学の既設の大学院7研究科・ビジネススクール(新設の大学院3研究科よりなる組織の仮称)を統括する。
(イ)「明治大学総合研究機構」は,傘下に,特定課題研究所(群)をおき,これを統括する。できれば,知的資産センターも,傘下に入れることが望ましい。
(ウ)既設の3研究所はこれを解散し,「明治大学総合研究機構」には,事務機構のほかに,3研究所長に相当するスタッフ(ブレイン)をおく。
(エ)「明治大学総合研究機構」は,下記の業務を含め,本学における研究に関するあらゆる「支援業務」を所轄する。
- 文部科学省・経済産業省・厚生労働省など,「研究助成事業(私学助成を含む)」に関する対外業務の一元管理
- 研究費の申請・配分(科研費,特定個人研究費,指定寄付金,委託研究費,重点研究費,総合研究費, TLO関係研究費,理工学部・農学部を対象とする「大型設備・ 中型機器」の募集・選定を含む)の一元管理
- 共同研究体制と研究支援体制の整備(RA・PD制度,客員研究員制度,連携大学院制度の整備など)
- 共同研究の提案・募集・選定などの一元管理
- 特定課題研究所の育成と支援
- 研究成果の管理と評価(「第三者評価」)
- 国際学術(欧文)誌の発行(または,発行支援),各種学内誌発行の一元管理
- 国際会議の募集・開催支援,国内研究集会の開催支援
- 研究者の招聘とSummer Schoolの開催
- 次期COE申請拠点の選定と育成
- TLO(産学共同)業務(知的資産センターを傘下に入れた場合)
II. 設置目的
本学における研究支援は3研究所が中心となって行われていますが,現在の体制は,学術の急速な発展と変化に対応しうる研究支援体制とは,言い難いものです。例えば
- 科学技術・社会科学・人文科学の各研究所が独立に(孤立的に)設置され,相互の連携機能を持たないうえ,3研究所を束ねる統括責任者が存在しないことは大きな 欠点です。人文・社会・自然科学の総合的あるいは学際領域での共同研究に対する支援は著しく困難となり,予算執行上の柔軟な対応も不可能となっています。
- 事務体制が弱体であって,本学のような巨大な組織における研究支援・推進機能を支えるには,十分でありません。
実際,現在の3研究所は,研究費の管理といったマネジメントの面では実に有能であり,よくやっていると高く評価しますが,戦略を建てて大学全体の研究を統括し,これを支援指導するという様な営みは,期待される業務には含まれていないと,私達は判断します。そして,より大きな問題は,そもそも研究を統括する全学的組織を作り,大学全体の明確な戦略に基づいて研究を支援することの必要性が,本学の運営体制の中であまり重要視されていない,その重要性が認識されていないというところにあります。
今年度21世紀COEプログラムに対し,理工学研究科から4件の申請がなされましたが,ヒアリング審査に進んだのは1件のみという結果に終わりました。本学全体としても,昨年度の申請件数も併せ,計15件申請したにもかかわらず,最終的な採択件数は0という惨憺たる状況です。この累々たる屍を見て,私達の脳裏に去来する思いは,彼等討ち死にした兵士達の力量(や努力)が,果たして他大学の申請拠点に比して劣っていたのだろうかという疑問であります。COE構想は,本来,個々の研究者 (集団) の業績や能力だけを問うていたのではありません。その研究が大学全体の戦略の中に如何に位置づけられ,研究教育拠点として如何に支援育成されているかの方が,より大きく問われていたのです。
本学と同規模の私立大学が21世紀COEプログラムに複数件採択される中,もしも本学に本当に次回を目指す決意があるのであれば,全学的研究支援体制としてまず最初に,研究担当副学長(大学院院長兼務)が統括する「明治大学総合研究機構」を立ち上げ,この組織が中心となって研究上の全学的戦略を樹立し,直ちに実行に移すことが必要です。 具体的には,まず,学内外共同研究体制を整備し,充実した研究支援体制を確立し,積極的に学内外の共同研究を提案(募集)・指導することが,期待される任務となります。また,この組織は,文部科学省・経済産業省・厚生労働省などが主管する,あらゆる研究助成事業(私学助成事業を含む)に関する,対外業務の窓口であらねばなりません。
知的資産センターを傘下に入れれば,産学共同も「明治大学総合研究機構」の主要な任務となります。本学に於ける産学共同体制は,3研究所とも既設・新設の大学院研究科とも独立に設置された,知的資産センターによって統括され運営されていますが,本学における研究活動の全体像を掌握することなく,成果の挙がる産学共同体制を構築することは,理念的にも現実的にも,なかなか困難であろうと推察されます。知的資産センターを「明治大学総合研究機構」の傘下に入れ,大学全体の研究支援体制の一環として運営されるよう,私達は提言します。
研究費の管理も大切な業務となります。本学には,科研費・特定個人研究費・指定寄付金・委託研究費・重点研究費・総合研究費・ TLO関係研究費など,多種多様な研究資金があります。「明治大学総合研究機構」には,これらの研究費の申請・管理・ 配分(傾斜配分)を,一元管理することが求められます。また,理工学部・農学部を対象とする「大型設備・中型機器」の募集・選定も,当然,「明治大学総合研究機構」の業務として,管理すべきものです。
III. 計画の詳細
以下,特定課題研究所の育成と管理など,個別の案件について,補足説明を行います。
ア 特定課題研究所の設置
激変しつつある現代社会は,新しい考え方,新しい制度,新しい知識と技術を必要としています。時代の要請に応える大学の組織と活動のキーポイントは,特定の研究課題(テーマ)を指定し,目的を明らかにした共同研究体制の構築にあります。学術研究の専門化及び先端化が更に進み,一方で,総合化及び学際化が深化拡大していく中,学内外の共同研究体制を整え,特定課題研究を推進する研究所を設置することは,明治大学の将来にとって,重い意味があります。例えば,2003年5月,理工学研究科委員会と理工学部教授会の合同会議で承認された,最大5年の時限付「特定課題研究所」構想は,その上部構造として研究担当副学長が統括する「明治大学総合研究機構」を想定する組織であって,その基本構想を要約すれば,下記のようになります。
- 研究者・・・専任教員,RA,博士研究員(PD,ポスドク)の他に,学外から客員研究員(学外研究者)を招聘する。
- 研究費・運営費・・・特定課題研究所が獲得する「学外資金」を充てることを原則とする。
- 研究成果・・・報告・公開,第三者評価機関によるに評価を受けることを義務とする。
農学部・農学研究科でも,同様の構想があると聞いています。この動きを全学に広め,「明治大学総合研究機構」の傘下,全学的規模で特定課題研究所を立ち上げ,運営することを強く提言します。大学全体の制度に関る「ポスドク・客員研究員制度」は未だ未整備の状態にあり,依然,研究支援体制は脆弱といわざるを得ません。これら「現場」の困難を克服するためにも,「明治大学総合研究機構」を設立し,研究員雇用に関する規程の整備と研究支援体制の改革に着手することを,強くお薦めします。
イ PD(ポスドク)制度の発足
理工学研究科と農学研究科からの要望と指摘をまつ迄もなく,科学研究費や21世紀COEプログラムの事業費を始めとして,法人がその費用を支弁することなく,PD(ポスドク)等を雇用することは,既に制度上可能です。私立大学にとって,PD雇用が政府系助成団体等からの助成費に頼らざるを得ない現状を省みれば,「明治大学総合研究機構」でPD雇用に必要な体制を早急に検討し,学内規程を整備することは,本学の研究支援体制の確立に大きく寄与します。理工学研究科と農学研究科だけではな く,すべての大学院研究科(博士後期課程)の充実と活性化にとって,PD制度の整備は,とても大切なことであると判断します。
ウ 客員研究員制度の発足
特定の調査・研究課題に関し,十分な知見と研究実績を有する,国内外の研究者を客員研究員として招聘することにより,特定の調査・研究事業の拡充を図ることが可能となります。「明治大学総合研究機構」における,早急なる対応を提案します。PD制度の整備とともに,理工学研究科と農学研究科だけではなく,すべての大学院研究科の充実と活性化にとって,客員研究員制度の発足は,大切なことです。
エ 連携大学院制度の促進
理工学研究科では,独立行政法人や企業等に所属する研究者を客員教員(無報酬)として任用し,研究所の施設・設備を活用して,研究・教育を行う「連携大学院制度」を,既に今年度から実施しています。このような営為は,理工学研究科に限らず,研究教育の活性化策の一環として,本学のすべての大学院研究科で実施されることが望まれます。「明治大学総合研究機構」には,連携大学院制度に必要な諸制度の整備を,推し進めて頂きたいと思います。
オ 国際会議の開催
研究のドラステイックな活性化と発展のためには,海外の卓越した研究者・第一線の若手研究者を招聘し,「国際研究集会」を開催することが,非常に効果的です。特に,本学若手研究者・大学院学生にとっては
- 最先端の研究者とその研究成果に接触することにより,最先端の課題(解決すべき問題)が具体的に把握されるなど,目的意識の確立と研究意欲の飛躍的向上がもたらされます。
- 交流会(茶話会・懇親会)を通して,speaker達との交流はもちろん,研究者世界の大きな拡大がもたらされます。
本学にとっても,国際会議の開催(宣伝活動が必要)を通して,研究教育についての公報活動に寄与がもたらされます。本学の優れた研究成果を世界に発信する場として,国際会議開催を支援することは,少ない経費で,大きな効果が期待可能です。同様に,国内研究集会の開催も,支援する必要があります。
カ 研究者の招聘と国際Summer Schoolの開催
国際会議を開催するには,海外著名研究者・若手研究者の招聘と共同研究の推進が,大きな課題となります。現在,研究者招聘は国際交流センターの所管業務ですが,「明治大学総合研究機構」は,これらの研究支援業務を国際交流センターから移管し,若手研究者と大学院学生を対象とする国際Summer Schoolの開催(あるいは,開催支援)とともに,一元的に管理運営すべきであると,私達は考えます
IV. 検討すべき業務
検討課題について述べたいと思います。まず最初に
ア 優れた「個人研究」の発掘と支援をいかに行うか。
これまで述べた提案は,もっぱら共同研究の支援に重点がおかれています。しかしながら,学問研究の多くは,研究者の内面世界に深く根ざした,おそらくは「純粋に個人的」関心に起因します。共同研究の形態をとらない優れた研究をいかにして発掘し,これを育成支援するかは,学問研究のみならず,本学における教育の発展深化にとっても,大変重要な意味合を持つと考えます。「優れた成果を挙げた者に対し,大金の賞を出す」というのも,たしかに奨励方法の一つではあるのでしょうが,途中経過(プロセス)を重んじ,支援しながら将来の大きな成長を見守るという施策は,もっと大切であると判断します。大学は「種を蒔き,苗を育てる」組織でありたいもので す。
イ 成果発表の支援をいかに行うか。
研究成果は,論文の形をとって,公表されるのが通常です。意外に知られていないことですが,論文発表には,高額の費用が必要となることがあります。理工系では,論文掲載料・別刷代金をあわせると,計30万円をこえる経費を請求されることも,決して珍しくはありません。これらの経費の支援は,部分的には既に,本学の各部署で実行されているようですが,「明治大学総合研究機構」において,論文評価に基づく一元管理を行い,充実を図ることが望ましいと,私達は考えます。
同様に,大学院学生による国の内外における学会講演などでは,旅費(渡航費・宿泊費)の支援が不可欠ですが,実際の支援額は未だ十分とは言えないようです。(理工研の例を述べますと,2002年度には,国内150件・国外44件,計194件の「大学院学生による学会発表」の実績があるようです。)この営為も,関係各部署に委ねるのではなく,「明治大学総合研究機構」において一元的に管理し,充実をはかる必要があります。
ウ 若手研究者・大学院後期課程学生の海外派遣
若手研究者・大学院後期課程学生の海外派遣(研究連絡・国際会議出席・summer school出席のため)は,研究の発展と活性化に絶大な寄与があります。海外派遣のための支援活動を「明治大学総合研究機構」の業務に加え,整備充実を図ることが望ましいと,私達は考えます。
エ 出版部の設置と国際誌の発行が望まれる。
本学規模の大学には,出版部が必要です。これまでも幾度か出版部の設置が,話題になった様ですから,設置に至らない何か大きな理由があることは,十分に想像出来ますが,ことは大学のstatusに関る営為であり,小規模の限定された活動でよいから,出版活動を行うことが望ましいと,私達は考えます。
「明治大学総合研究機構」では,各研究所紀要など,学内誌発行を(厳格公正な,原則,学外者による査読下に)一元管理することを薦めます。学内誌の資質向上のためにも,論文投稿を学外者にも開放することがあってよいと,私達は考えています。学内でしか通用しない「学内誌」ではなく,学術「専門誌」として他大学等研究機関の図書館で購入配本されるためにも。そして,大学院学生の論文投稿に,門戸を開く工夫が必要です。年に1編とか2編とかいった,限られた論文数ではなく,価値ある論文の投稿数に合わせて,出版論文数を増やすような,そういう柔軟性が研究の育成のためには必要です。
また,国際誌を発行するか,発行支援を行うことは,本学のstatus向上に大きく寄与します。「明治大学総合研究機構」では,この課題を真剣に検討し,可及的速やかに実行に移すことを望みます。
オ 研究業績等,成果は一元管理が望ましい。
現在,幾つかの部署で独立に実施されている教員の業績評価は,「研究・教育・管理業務・社会への貢献など」必要な項目をすべて集め,「明治大学総合研究機構」で一元的に管理することが望ましい。同じような書類を複数回作成させられるのはたまらないという調査される方の事情もありますが,TLO業務上の資料,研究成果の評価,あるいは,人事考査資料といった観点からも,一元化が必要であると考えます。
V. COE戦略
さて,次回のCOEを通すには,下記の対策が不可欠であると,私達は考えます。
(1) 「明治大学総合研究機構」を樹立する。
(2) 「○○学研究」を「明治大学総合研究機構」の「特定」研究課題の一つに指定する。
(3) 「○○学研究」を課題とする特定課題研究所「明治大学○○学研究所」を設立し,実績(COE申請調書に記入し,成果を主張できるような,日常活動)の積み上げを行う。
当面の目標は下記の9項目とする。
(i) 研究の発展(世界的レベルの研究の展開,指導性の確立)
(ii) 所員による共同研究の推進
(iii) 教育実績の拡大(大学院博士後期課程学生数の増加と学位取得者数の増大,大学等academic positionへの就職者数の増加,○○学研究を目指した博士前期課程進学者数の増加,他大学研究機関からのPD学生の受け入れ,海外からの留学生の受け入れなど)(→ 大学院研究科との連帯)
(iv) 海外著名研究者の短期・長期招聘(→ 国際交流センターとの連帯)
(v) 海外若手研究者の招聘と共同研究の推進(→ 国際交流センターとの連帯)
(vi) 若手研究者・大学院後期課程学生の海外派遣(研究連絡・国際会議出席・summer school出席など)
(vii) 国際会議開催
(viii) 国内研究集会の開催と開催支援
(ix) 国際Summer School開催
他に,大学院研究科と連帯しつつ,実施しなければならないこととして
(4) 大学院に於ける研究指導体制の強化充実(○○学関連分野教員の増員)
(5) 大学院カリキュラムの点検整備・講義科目の充実
(6) 他大学との連携強化(単位互換制度などの積極的利用)
(7) 大学院専用研究室の整備拡大・客員研究者のための研究室の確保
があります。
既に学内に存在する,傑出して優れた人材(学内にいなければ,学外から招聘する)を核に,十分な「人・資金・スペース」を投入し,「時間をかけて育成する」,これに尽きると思います。そしてこの地道な努力こそ,15戦全敗の本学に,欠けていたことではないでしょうか。
VI. おわりに - 「明治大学総合研究機構」の使命
思うに,「明治大学総合研究機構」の使命は,「学内における研究成果の厳正な評価(外部委託可)」と,この評価に基づく「次期COE申請拠点の選定と育成」にあります。様々な業務は,この使命達成のために必要な準備でもあります。雪辱を期して,直ちに「明治大学総合研究機構」を設立し,「COE申請拠点の育成」に全力を挙げられるよう,ここに強くお薦め申し上げます。